高い!というイメージが未だ根強いスマートホーム機器ですが、Matter登場以来その値段は確実に下がってきています。
特に Matter対応製品は比較的安価に購入できるものが多いですが、これには理由があります。本稿では、Matter対応製品がなぜ安いのか、その理由を見ていきましょう。
スマートホーム今昔
一昔前、カメラ付きドアベルを導入するにあたってかかる費用は云十万円とも言われておりました。こうした製品が発売され始めた当時、撮像素子も無線通信機器も今より高価であり、結局有線で繋ぐための工事が必要となり、このお値段、ということだったようです。どれだけ治安の悪い場所に住んでいたとしても中々決断しづらいお値段ですよね。
2025年現在、カメラ付き無線通信ドアベルのお値段はなんと12,680円(税込)まで下がりました。工事や複雑な設定はもちろん必要なく、スマホのアプリで簡単に操作できます。こちらの製品は Matterにも対応しており、他社製品とも連携させることが可能です。
通販番組のような導入になってしまいましたが、実際、この価格は皆さまの予想よりもお安かったのではないでしょうか。筆者自身、もっと高いものだと思っていました。過去のカメラ付きドアベルの価格イメージが先行していたためです。
斯くして、なぜこれほどスマートホーム機器はお安くなったのでしょう。
一番の理由はもちろん、撮像素子や無線通信技術の進歩にあります。これらの機器が安価かつ大量に生産できる基盤が整ったことが価格低下に繋がりました。
ただ、それだけではありません。
価格が下がった要因には、共通規格 Matterの登場も関係しています。
Matter対応製品が安い理由
Matterによってスマートホーム機器の価格が低下した理由を端的に言えば、「メーカー各社の分業と共生ができるようになったから」です。どういうことか、以下で詳しく解説します。
Matter以前
Matter以前、スマートホーム機器メーカー各社は自社の製品のみで市場を独占しようとしていました。これは Appleが iPhoneと Macを中心としたプラットフォームで顧客を囲い込んだケースと同じ戦略です。
巨大プラットフォーマーはスマートホーム市場を自社製品で埋め尽くすべく、様々な技術に手を出します。
照明、センサ、アクチュエータ、カメラ、、、。中には上手くいったものもありました。しかし、ノウハウのない新たな製品を世に送り出すためには開発費も開発期間も膨大に必要です。元々積み上げのあるセンサメーカー、照明メーカーには質の点でも劣ります。
そして、その開発費用を賄うのは消費者であり、商品価格に反映されます。結果としてスマートホームは高価でした。
加えて厄介だったのが、メーカー間の互換性の無さです。メーカーAの製品とメーカーBの製品を同時に使うことができず、スマートホーム導入のためには全てメーカーAの製品で統一しなければなりませんでした。
図 Matter以前のスマートホーム製品の互換性
Matter以後
ここに登場したのがスマートホームの共通規格 Matterです。Matter対応の製品は他社メーカーのものであっても互換性を持ちます。つまり、メーカーAの製品とメーカーBの製品を共存させることが可能です。
すると、メーカー各社は各々の強みとする技術に集中することができるようになりました。自社に足りない技術にわざわざ手を出す必要はなく、足りない部分は他社の製品にお任せすればよいわけです。ユーザーは機能やデザインの好みに応じて製品を購入できるようになり、それによって接続の問題が生じることもありません。
製品をMatterに対応させるにあたって必要な開発用ソフトウェアは標準化団体の CSAが提供しており、各メーカーが自由に利用できます。
以上のような理由から、開発費用と開発期間を低減することができ、これが商品価格に反映されるというわけです。
図 Matter対応製品の互換性