IKEAはスウェーデンを本拠とする世界最大の家具量販店であり、2017年にはスマートホーム事業の展開も始めました。そんな IKEAにとってスマートホームとは何なのでしょうか?IKEAはスマートホームをどのように捉え、どのような将来を描いているのでしょう?
今回は IKEAという企業や IKEAのスマートホーム戦略について紹介します。
創業から IKEAスタイルの確立まで
IKEAは 1943年に雑貨店としてスウェーデンで創業しました。商品を安く仕入れ、安く売ることで事業を拡大していきます。
設立から 10年、順調に売上を伸ばしていたところでライバル店との価格競争に巻き込まれ、家具メーカーからの供給を止められてしまいます。ここで大きな方針転換をし、自社でデザイナーを雇い、製品の企画・製造までを担う現在の IKEAスタイルを確立しました。
フラットパック革命
同時に生まれたのが「フラットパック」というシステムでした。これは分解された家具を小さく梱包し、車で運搬しやすい形にした販売形態です。
ユーザーは IKEA店内で完成品の家具を見て回ります。そこで気に入った家具があれば、その家具のフラットパックを購入して車に積み込み、家に帰ってから購入者自身で組み立てます。これによって本来かさばる家具でも運搬に関わる費用を大きく低減でき、より安価に商品を提供できるようになりました。
IKEAの販売戦略はこのフラットパックを基軸としています。車で来店しやすいように郊外の幹線道路沿いに出店し、カフェを併設することで、休憩しながら長時間ショッピングを楽しめるようにしました。
フラットパックを使った販売戦略は大きな成功を収め、現在 IKEAは世界最大の家具量販店として知られるようになりました。

スマートホーム事業への着手
IKEAは時代ごとに新たな技術を取り入れてきました。IoTやスマートホームもそのうちの 1つです。
IKEA初のスマートホーム製品、スマート照明 TRÅDFRIの発売は2017年。Philips Hueなどの先行するスマート照明製品の発売からは 5年ほど遅れての参入でした。
当時の IKEAプレスリリースでは、スマート照明が多くのユーザーに使ってもらうための課題を「高価すぎること」と、「複雑過ぎて理解されないこと」だと指摘しています。そこで IKEAでは通常の LED照明と同じようにソケットに挿入するだけですぐに利用でき、ゲートウェイとアプリを使って簡単に操作できるものにしました。

価格も他社スマート照明より安く設定され、シンプルで無駄のない機能、高い信頼性を持つスマート照明を実現しました。スマートホーム購入しようとする消費者の意識のハードルを下げることに尽力したのです。より安く、より良いものを追求する姿勢は IKEA創業時からフラットパック販売戦略にまで一貫する IKEAの理念であり、スマートホーム事業においてもその姿勢が見て取れます。
また、他社に先駆け、Googleアシスタントや Apple Homekit、Amazonの Alexaなど、スマートスピーカーとの連携を志向していました。ユーザーがどのような製品を持っている場合でも、IKEAの製品がその中に自然に溶け込めるように設計されています。
WIREDによるインタビューの中では、「ほかの企業を締め出すための独占的なシステムをつくるなんて、考えたこともありません」と語っていることが印象的です。
スマートホーム製品の拡大
スマート照明のリリース以降、同社スマートホーム関連商品は着実にラインナップを拡充してきました。音声認識やタイマー設定で自動開閉できるブラインド(2017年)、空間との調和を意識した Wi-Fiスピーカー(2022年)や空気清浄機(2022年)などです。

空気清浄機 STARKVINDの発売に際し、プレスリリースではスマートホーム事業について以下のように語っています。
「IKEAにとって、スマートホームとはガジェットのことではありません。ホームファニッシング(家具全般のトータルコーディネート)とテクノロジーの融合によってより良い住体験を提供することです。」
IKEAはスマートホーム事業に関して、常に住空間全体との協調について言及してきました。各々の製品はそれ自体で完結するものではなく、他の家具や居住者のライフスタイル、季節や気候とも関連するものです。IKEA製品のシンプルさはこうした設計理念を反映しています。
また、2024年にはドアセンサや動体センサを発表。こちらも比較的安めの価格設定によって、一般ユーザーが気軽に触れるスマートホームの実現に貢献しています。
CSAの中核メンバーへ
「他社製品とも協調するような家具」という発想は、スマートホームの共通規格である Matterにも通じるものです。
Matterの登場以前、IKEA製品を他社製品と連携させるためには、Home assistant, Hubitat, Smartthings, IFTTTなどの導入が必要で、プログラミングに関する知識が少なからず必要でした。スマートホーム導入のハードルを下げたい IKEAにとって、これは望ましい状況ではありません。
当初から複雑すぎることに問題意識を持っていた IKEAは、早くから CSA(Matter運営団体)のメンバーとして Matterの普及に尽力しています。2022年にはスマートホームハブ DIRIGERAを発売し、Matterを使って IKEA製品が他社のコントローラでも利用できるようにしました。ソフトウェアの改訂は現在も続いています。
また、2025年7月には、これまでの Zigbeeを用いた通信から Matterを用いた通信へ移行していくことを発表しました。来年 1月からは新たなスマート照明などを順次展開してく予定です。これによって他社製品であっても、Matter対応のものであれば IKEAのホームハブ DIRIGERAで操作できるようになります。
この決定は、スマートホームにおける複雑さを排除し、より多くの人がスマートホームを導入できるようにするための重要なステップです。IKEAは既に巨大な家具量販店であるが故に、消費者はその決定に振り回され、多少の混乱が生じるでしょう。こうした混乱への対応も今後の IKEAの課題となっていきます。