紙を使わない未来へ。電子ペーパーは本当に環境にやさしいのか?

紙を減らすことは、本当に地球にやさしいのでしょうか?

私たちの暮らしを見渡すと、駅のポスター、商業施設の案内板、店頭のPOP、公共施設のお知らせなど、今もさまざまな場所で紙が使われています。
紙は安価で、電力を必要とせず、誰にでも見やすい優れた情報媒体です。しかし、定期的に内容を更新する場合、そのたびに新しい紙を印刷し、運び、人の手で交換し、古い紙を処分する必要があります。

一方、近年進化を続けている「電子ペーパー」は、一度設置すれば表示内容を繰り返し書き換えられます。しかも、表示を維持するための電力をほとんど必要としません。

では、紙を電子ペーパーに置き換えることで、環境への負荷は本当に減るのでしょうか。

その答えを考えるためには、製品を使っている間だけではなく、製造から廃棄までの「ライフサイクル」全体を見る必要があります。

1. 紙は環境にやさしい。でも、使い捨ての仕組みはどうだろう?

紙は再生可能な木材資源から製造でき、古紙としてリサイクルする仕組みも広く普及しています。

そのため、紙そのものが環境に悪いというわけではありません。

問題になるのは、情報を更新するたびに新しい紙を必要とする使い方です。

例えば、駅に掲示される広告ポスターを考えてみましょう。

新しい広告が始まるたびに、印刷会社でポスターを製造し、駅まで輸送し、作業員が古いポスターと交換します。掲示を終えたポスターは回収され、リサイクルまたは廃棄処理へと進みます。

この一連の作業は、広告を更新する限り繰り返されます。

つまり、環境への影響を考えるときには、紙の枚数だけでなく、印刷、輸送、作業、廃棄まで含める必要があるのです。

2. 10年間で考えると、紙と電子ペーパーの違いが見えてくる

ここで、駅の広告ポスターを10年間使用する場合を考えてみましょう。

従来の紙ポスターでは、広告を更新するたびに新しい印刷物を用意し、現地で交換します。10年間にわたって多くの駅で同じ運用を繰り返せば、その累積使用量は非常に大きくなります。

一方、電子ペーパーの場合は、初期設置後の広告更新をネットワーク経由で行うことができます。

紙の印刷や輸送、現地での貼替作業を削減できる可能性があるのです。

従来の紙ポスターと電子ペーパーディスプレイを、製造・輸送・貼替・廃棄の観点から比較した概念図。数値は想定条件に基づく試算であり、実測による環境負荷削減量を示すものではありません。

ただし、電子ペーパーにも、半導体やディスプレイ、電子回路、蓄電池などを製造するための資源とエネルギーが必要です。したがって、単純に「紙を使わないから環境負荷がゼロになる」というわけではありません。

重要なのは、一度製造した電子ペーパーをできるだけ長く使い続け、製造時の負荷を、その後の紙や物流、交換作業の削減によってどこまで相殺できるかということです。

このように、資源の採取から製造、使用、廃棄までの環境負荷を評価する方法を、LCA(ライフサイクルアセスメント)と呼びます。

3. 電子ペーパーの省エネルギー性は、普通のディスプレイと何が違う?

電子ペーパーの大きな特徴は、表示している画像を維持するために、原則として電力を必要としないことです。

一般的な液晶ディスプレイは、画面を表示し続けるためにバックライトなどの電力を必要とします。

これに対し、電子ペーパーは表示を書き換える際に電力を消費しますが、更新後は電力供給を止めても画像が残ります。

また、紙と同じように周囲の光を反射して表示するため、通常はバックライトを必要としません。

この特徴は、静止画を長時間表示するポスターや案内板に適しています。

もちろん、無線通信や制御回路、画像更新には電力が必要です。それでも、常に発光し続けるディスプレイとは異なる省電力設計が可能になります。

4. なぜ今、実現できるのか? 室内光で発電する電子ポスターの登場

電子ペーパーのもう一つの可能性。それは、外部から電力を供給しなくても動作する「エネルギー自立型ディスプレイ」です。

これまでにも、室内の光を電気に変える技術は存在していました。

例えば、電卓などに使われてきたアモルファスシリコン太陽電池(a-Si)や、室内光での発電に適した色素増感太陽電池(DSSC)です。

しかし、駅の照明のような限られた光から、大型ディスプレイの画面更新や無線通信に必要な電力を安定して確保するには、発電効率や設置面積などの課題がありました。

この可能性を大きく広げたのが、近年急速に進歩しているペロブスカイト太陽電池(PSC)です。

PSCは、太陽光だけでなく、LEDや蛍光灯などの弱い室内光からも高効率で発電できることが特徴です。光を吸収する材料の特性を室内照明に適したものへ調整でき、従来技術を上回る高い変換効率も研究で報告されています。

そして、もう一つ重要な技術進歩があります。

それが、IoT向け無線通信技術の進化です。
低消費電力の無線通信と組み合わせることで、必要な電力量を抑えることができます。

「室内光から得られる電力が増えたこと」と「情報取得と表示に必要な電力を減らせるようになったこと」。

この二つの技術進歩が重なった今、電源工事を必要としない大型電子ポスターが現実的な開発対象になってきたのです。

その新しい可能性に挑戦しているのが、ディサイン株式会社が開発を進める40.5インチのカラー電子ポスター「LIG(リグ)」です。

LIGは、屋内照明を利用する太陽電池と蓄電池、カラー電子ペーパー、低消費電力の無線通信を組み合わせ、外部電源に頼らず、ネットワーク経由で広告を更新できる仕組みを目指しています。

もちろん、実際に電力自立型の運用が成立するかどうかは、駅の照度や発電量、通信頻度、画面更新回数によって変わります。これらは今後の実証実験で検証していきます。

それでも、かつては電源の確保が大きな障壁だった電子ポスターが、室内光だけで動作する可能性を持ち始めたことは、大きな技術的転換点といえるでしょう。

▶ 関連記事:[室内光で発電するペロブスカイト太陽電池とは? その仕組みと可能性](公開後に記事URLを設定)

5. 鉄道利用者の約6割が、紙ポスターの電子化を支持

こうした変化を、実際に駅を利用する人々はどのように受け止めているのでしょうか。

ディサイン株式会社は2026年9月、主要都市圏で月1回以上鉄道を利用する10代から60代の男女1,259人を対象に、紙ポスターと電子ペーパーに関する意識調査を実施しました。

調査では、電子ペーパーの特徴を詳しく説明した後、次の結果が得られています。

  • 59.1% が、駅の紙ポスターの一部を電子ペーパーに置き換えることを支持
  • 60.3% が、鉄道会社の環境対策として意義があると回答
  • 55.6% が、その取り組みを行う鉄道会社を高く評価

さらに、電子ペーパーへの置き換えを支持した人の理由として、「環境負荷の低減が期待できる」と「広告や案内を速やかに更新できる」が、ともに34.7%で最も多く選ばれました。

この結果は、環境への配慮だけでなく、情報を素早く更新できるという実用的なメリットにも期待が集まっていることを示しています。

ただし、この調査は利用者の意識や期待を調べたものであり、実際のCO₂削減量を測定したものではありません。

詳しい結果は、2026年9月28日に公開されたプレスリリースで確認できます。

▶ PR TIMES:駅の紙ポスターを電子ペーパーへ。鉄道利用者59.1%が一部置き換えを支持

6. 本当に環境にやさしいかどうかは、これから実証する

電子ペーパーが環境負荷の低減につながるかどうかは、設置場所や使い方、更新頻度、製品寿命によって変わります。

そこでディサイン株式会社では、2027年1月から駅環境でのPoC(概念実証)を開始する計画です。

今回の実証では、電子ポスターとしての表示品質や情報更新の性能だけではなく、実際の発電量、消費電力、設置工事の負担、紙ポスターの削減量なども検証する予定です。

こうした実測データを蓄積し、長期間の運用でどれほどの環境負荷低減が見込めるかを評価することが重要だと考えています。

7. 紙をなくすことではなく、紙を使わなくてもよい仕組みをつくる

紙には、長年にわたって私たちの暮らしを支えてきた価値があります。

一度掲示すれば長く使える印刷物や、電源も通信も必要としない案内など、紙の方が合理的な場面も数多くあります。

だからこそ、すべての紙を電子化する必要はありません。

しかし、毎週、毎月、新しい内容に交換するポスターや掲示物では、電子ペーパーを使う方が合理的になる可能性があります。

そして、表示に必要な電力まで自ら生み出せるようになれば、情報を届ける仕組みそのものを、より持続可能なものへ変えていけるかもしれません。

大切なのは、紙を否定することではなく、限りある資源を繰り返し消費しなくても情報を届けられる選択肢を増やすこと。

紙のように自然に見えて、必要なときに何度でも書き換えられる。

そんな電子ペーパーが、私たちの街の風景を少しずつ変えていく未来が始まろうとしています。


関連情報

紙ポスターから電子ペーパーへ ― 調査結果とLIGプロジェクトの紹介

2026年9月28日発表:PR TIMES公式プレスリリース

参考資料

  • 環境省「グリーン購入法における古紙利用のあり方」第3部、紙の環境負荷に係るLCA評価。
  • Moberg et al., Printed and tablet e-paper newspaper from an environmental perspective — A screening life cycle assessment, Environmental Impact Assessment Review, 2010.
  • ディサイン株式会社「駅の紙ポスターと電子ペーパーに関する意識調査」、調査実施日:2026年9月11日、発表日:2026年9月28日。