電子ペーパーが市場に出回るようになってから約20年。応答性、コスト、サイズ、多色化など、様々な方向へ進化を遂げつつ、電子ペーパーの社会実装が進められてきました。

ここでは駅構内ポスターの電子化プロジェクト Live Ink Grid(LIG)とカラー電子ペーパーの関係について解説します。

電子ペーパーとは?

一昔前は電子ペーパーを使っている人が少なかったので、こうした媒体で実例に挙げて説明することに苦労しておりました。しかし、最近になって分かりやすい例が出てきてくれて、説明が簡単になったので大変助かっています。

その分かりやすい例というのが、おいしいワインを安く飲めることで有名な大手飲食チェーンの「サイゼリヤ」です。サイゼリヤは QRコードをスマホで読み取って注文する形式なのですが、その QRコードが表示されているディスプレイ、ここに電子ペーパーが使われています。

サイゼリヤの電子ペーパー

電子「ペーパー」というとペラペラの曲げられる紙のようなものをイメージするかもしれませんが、電子ペーパーの本質は柔軟性ではありません。普通のディスプレイと電子ペーパーの違いは「自ら光を発するか否か」にあります。

普通のディスプレイは背後にバックライトがあったり、画素自体が発光したりして自ら光を発しています。そのため、暗闇の中でもはっきりと見えます。

対する電子ペーパーは自らは発光せず、反射光によって視認されます。そのため「反射型ディスプレイ」とも呼ばれます。電子ペーパーは色を塗った砂粒を並べ替えて画像を作っているようなものなので、真っ暗闇では何も見えません。

それはデメリットでは?確かにそうですが、その性質のお陰でいいこともあります。

まず、消費電力が圧倒的に少ないです。

電子ペーパーは画像を切り替えたり、外部と通信するために電力を消費することはありますが、同じ画像を表示させ続けることに電力は消費しません。よって、同じ画面を表示し続ける用途に向いています。

また、普通のディスプレイが直射日光などの強い光の下で見えにくくなるのと対照的に、電子ペーパーは強い光の下で画面がよりはっきり見えます。つまり、屋外用途に最適です。

そして、普通のディスプレイより構造がシンプルであるために軽量化でき、場所を選ばず様々な用途に利用できます。

電子ペーパーの進化

過去の電子ペーパーは白黒でした。これは、片面を黒、片面を白に塗った小さな球を電気の力で反転させ、画像を作る、という方式だったためです。

この白黒電子ペーパーの使い方として、タッチパネルと組み合わせてメモ帳に利用する、というものがあります。知り合いが 1つ持っていて、私も昔一度触らせてもらいました。普通のタブレットより軽くて、電池持ちもよいため、紙のノートのように携帯して使うことができる上、保存したページを検索して呼び出せる、という中々便利な品です。

reMarkable Paper

その後、電子ペーパーの製造技術が確立されて低価格化が進み、電子棚表としての使い方が広まりました。

スーパーやアパレルショップなどで商品名や値段が書かれている棚表。これを電子ペーパーに置き換えると、棚表を手で差し替える必要がなくなります。電子ペーパーの画質では普通のディスプレイに対抗することは難しいですが、棚表程度であれば優れた画質は必要ありません。

電子棚表 / E Ink

冒頭で紹介したサイゼリヤの事例もこの電子棚表に近いものです。

そして、近年新たに「カラー電子ペーパー」が登場しました。

これは複数種類の粒子を電圧のかけ方で操作したり、白黒電子ペーパーとカラーフィルターを組み合わせたり、と色々な方式があります。

駅構内ポスターの電子化プロジェクト Live Ink Grid(LIG)では、このカラー電子ペーパーを使って、従来の紙ポスターを代替しようとしているわけです。

なぜ紙のポスターが健在か?

紙とディスプレイを比べれば、貼り換えが不要であったり、動画が表示できる点でディスプレイが勝っています。しかし、国内全ての紙ポスターがディスプレイに置き換えられているわけではありません。

これがなぜかと考えてみたときに、最大の理由は当然「コスト」でしょう。紙ポスターと大型ディスプレイでは材料費が 5桁以上違います。

長期的な視点に立ったときには、電力消費やメンテナンスコストも考える必要があります。貼り換えが不要だと言っても毎日の電力コストがそれを上回るかもしれません。

人通りの多い駅ならともかく、日に 100人も見ないようなポスターで動画を表示させる必要はないですし、普通のディスプレイはオーバースペック。これら様々な理由により、現在でも紙のポスターが使われているわけです。

では、電子ペーパーであれば置き換えが可能なのでしょうか?

電子ペーパーは通常ディスプレイと違って圧倒的に少ない電力消費量が魅力です。通信や画像の切り替えには電力を使いますが、この電力はペロブスカイト太陽電池を使って供給することを計画しています。

また、軽量であるため、現在紙ポスターが貼られている場所をそのまま置き換えられるケースもあるでしょう。本体が重いと固定や安全対策に余計な費用が掛かります。

電子ペーパーは通常ディスプレイほどの画像切り替え速度を持たないので動画を表示させる用途には向きませんが、これもポスターであれば問題ありません。画面の切り替えは日に数度で十分です。

最大の壁はコストですが、、、まぁ、少しずつ頑張ります。と電子ペーパー君は申しております。

明るい予測として、電子ペーパーはシンプルな構成で部材も安いので、今後量産体制が整うことで今よりも安くなる可能性はあるでしょう。実際、電子棚表のように、1店舗で数千、数万と利用できるほどに価格は下がってきました。

何も全ての紙ポスターを置き換えよう、というわけではありませんので、採算や環境負荷の観点から特に置き換えの効果が高い場所を優先的に置き換えていく所存です。

見た目に違いは?

他にも、紙ポスターから置き換えていくにあたって気になることと言えば、その見え方です。苦労して紙から切り替えたのに、不鮮明で不明瞭だと残念ですよね。

当方の手元にある資料によりますと、今回使うカラー電子ペーパーの画素密度は 131 ppi(pixel per inch)、だいたい 0.2 mm ごとに画素が 1つ並んでいます。ちなみに通常のポスターの画素密度の目安は 150~200 ppi程度、とのこと。

他方、視力 1.0 の人が 1 m 離れたところから見分けられるのは 0.3 mm程度が限界。つまり、画質の観点から言えば、この条件で両者の見分けはつきません。

ただし、普通のポスターとは使っている色や質感が異なるため、見分けられる可能性はあります。

PoC

設置したカラー電子ペーパーがどう見えるかは光の当たり方やポスターとの距離、角度によっても変わってくるわけです。その辺りのことは実際に設置してみないと分かりません。

そこで、実証実験(PoC)を行います。

設置したカラー電子ペーパーが紙ポスターと同じように見えるのか、たくさんの方に確かめて頂きたいと思います。

また、ここでは、通信が上手くいくか、太陽電池できちんと発電して人の手なしに動くのか、運用コストや環境負荷はいかほどか、などなどを調べていく予定です。

PoCの様子は順次公開していきますので、続報にご期待くださいませ。