駅構内ポスターをカラー電子ペーパーで置き換えるプロジェクト Live Ink Grid(LIG)では、通信や画像切り替えに要する電力を自ら供給するため、ペロブスカイト太陽電池が用いられます。
ここではペロブスカイト太陽電池の長所・短所や LIGとの関係について紹介します。
ペロブスカイトとは
今から 200年ほど前、ロシアの鉱物学者ペロフスキーさんは灰チタン石(CaTiO3)という鉱物を発見しました。
その後、灰チタン石と同じ結晶構造を持つ物質がいくつか報告されたのですが、この結晶構造こそ、現在ペロブスカイト(perovskite)と呼ばれているものでございます。
語尾についている “ite” は鉱物や結晶構造を表す接尾辞です。アイオライト(iolite)とか、グラファイト(graphite)とか。
元素の名前に “gen” が付いていたり、恐竜の名前に “サウルス” が付いてたりするのと同じですね。つまり、「ペロブスカイト」とは「ペロフスキーさんの鉱物(結晶構造)」ぐらいの意味になります。

ペロブスカイト結晶構造は、上図のように 3種の物質が規則的に並びます。この結晶は様々な要因から容易に歪み、これによって特異な電子物性を発現します。
今注目のペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイト結晶構造を使ったアプリケーションは様々ありますが、中でも近年注目を集めているのがペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池では、活性層においてシリコン(ケイ素)の代わりにペロブスカイト材料を用いています。
ペロブスカイト材料が太陽電池に利用できると分かったのが 2005年ごろ。当初 3%程度だったペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率は目覚ましい速さで成長し、2021年には約25%まで到達しました。
ペロブスカイト太陽電池が注目を集める理由は、実用に足る高いエネルギー変換効率を持つことだけではありません。
まず、ペロブスカイト材料はシリコンよりも高い光吸収率を持ちます。つまり、シリコンより「黒い」わけです。
そのため、室内照明などの僅かな光量でも効率的に発電できる上、薄くて軽い太陽電池が作れるようになります。
加えて、ペロブスカイト材料はある程度の柔軟性を持ちますので、曲げられるペラペラのシート状に加工できます。
従来、平地や屋根の上にしか設置できなかった太陽電池ですが、ビル側面やビニールハウスの上などで場所を選ばず活躍できるようになりました。その他にも、すぐ展開できる非常用電源としての用途は、地震や台風などの自然災害が多い我が国において大きな注目を集めています。
実際の社会実装においては、コストや寿命、材料に使われる鉛の環境負荷など様々な問題がありますが、これらも近年の研究開発によって徐々に改善しつつあります。

駅の広告ポスター用途に最適
ここからは駅構内の電子ポスター化プロジェクト Live Ink Grid(LIG)の話をさせてください。
日本全国には約9,000もの鉄道駅があります。駅構内では、広告キャンペーンや掲示期間の変更に合わせて、多くの紙ポスターが定期的に貼り替えられています。
そのたびに新しいポスターの印刷や輸送、現地での貼替作業、使用済みポスターの回収・廃棄が発生します。
一つひとつの作業は小さくても、全国の駅で長年繰り返されていることを考えれば、その累積的な資源やエネルギーの消費は、決して見過ごせない課題ではないでしょうか。
紙を一度使うことよりも、情報を更新するたびに新しい紙を使い続けること。そこに、私たちが見直したい課題があります。
LIGは、通常ディスプレイではなく電子ペーパーを使うため、画像を表示し続けることに電力を消費しません。ただ、データの送受信や画像の切り替えには僅かながら電力を要します。その電力を供給すべく、LIGに採用されたのがペロブスカイト太陽電池です。
先述の通り、少ない光量でも発電できるペロブスカイト太陽電池は直射日光が当たらない駅構内とも相性が良く、場所を選ばず設置できます。
軽量であることも紙ポスターの代替としては有利に働きます。軽い分だけ設置が簡単で、現在の紙ポスターをそのまま置き換えられる場面も増えるためです。
駅構内という条件を様々な角度から見つめなおすと、ペロブスカイト太陽電池が最適なソリューションというわけです。
鉛問題と LCA
先ほどは紙を槍玉に上げましたが、実際のところ、紙やその周辺の産業というものはそれほど環境負荷が高いわけではありません。
これは製紙産業が長い歴史の中で製造プロセスを磨いてきたためです。製紙業はリサイクルや省エネ技術が最も進んだ分野の 1つでもありますし、林業と提携して持続可能な産業構造を確立してきました。
対する新参のペロブスカイト太陽電池君はというと、「鉛問題」を抱えています。材料に使われる鉛は環境負荷が大きく、廃棄時に適切な処理が必要な「特定有害物質」です。紙を電子ペーパーに置き換える、とだけ聞くと環境にやさしいような気がしますが、廃棄時まで考慮すると実はそうでもないのかも、、、?
環境への影響を考える時には、その製品が生まれてから廃棄されるまでの全ての工程(Life cycle)を見て、総合的に評価(Assessment)されなければなりません。こうした考え方を「ライフサイクルアセスメント(LCA)」と呼びます。
LIGで使われる太陽電池は有害物質の使用量制限を定めた RoHSに対し、その規制量を大幅に下回る数値(54mg/kg)であることに加え、LCAの観点から環境負荷を低減できるという確信を持ってスタートを切りました。
環境負荷を下げるためにポスターを代替しようとしているのに、逆に負荷が大きくなるのでは意味がないですものね。
PoCへ
最後に確かめなければいけないのは「実際に設置したときの効果」です。
一口に「駅構内」と言っても場所によってその環境は様々。光量が足りなくて発電量が足りなかったり、通信環境が悪くて余計に電力を消費したりすることもあるかもしれません。
そこで、まずは小規模な実証実験(PoC : Proof of Concept)を実施することに致しました。PoCの結果を元に LIGを更にブラッシュアップし、社会実装を進めて参ります。
街で見かけたときは、カラー電子ペーパーがどのように見えるのか、ペロブスカイト太陽電池がどのくらい薄いのか、確かめてみていただけると幸いです。